• 検索結果がありません。

中村敏和(助教授) 分子研リポート2004 | 分子科学研究所

N/A
N/A
Protected

Academic year: 2018

シェア "中村敏和(助教授) 分子研リポート2004 | 分子科学研究所"

Copied!
4
0
0

読み込み中.... (全文を見る)

全文

(1)

研究系及び研究施設の現状 143

中 村 敏 和(助教授)

A -1)専門領域:物性物理学

A -2)研究課題:

a) T MT T F 系電荷秩序状態と基底状態の微視的研究

b)多周波 E S R 法による(TMTTF)2X 系のスピンダイナミックス研究

c) (TMTTF)2X の異常 g シフト:構造解析ならびに量子化学計算からのアプローチ

d)(B E D T -T T F )2MF6系の多周波 E S R による低温電子状態解明 e) 分子性固体の新機能探索

A -3)研究活動の概略と主な成果

a) T MT T F 系の電荷秩序状態の研究も進み,その起源自体の理解が求められている。我々は将来的な中性子散乱測定も 念頭に置き,末端メチル基を重水素化した T MT T F 分子(TMTTF-d12)の合成を行った。一方で,分子性導体の場合に は,重水素化によるわずかな構造変化でも電子物性に大きな影響を与えることが知られている。我々は重水素化の 影響ならびに,T MT T F 系の電荷分離現象が純電子的なものか,あるいはアニオンとの相互作用によるものかを議論 するためにこれらの系に対して研究を行った。一連のT MT T F に対する実験の結果,カウンターイオンの対称性の違 いにより,電荷秩序転移温度(TCO)の重水素効果が異なることが分かった。我々が,T ype_ Iと称している四面体アニ オン系のR eO4では重水素化でスピン一重項転移温度がほとんど変わらないのに対し,T ype_ IIと呼んでいる八面体 アニオン系MF6塩では,S bF6塩で約 8 K ,A sF6塩では約 18 K にも及ぶ顕著なTCOの上昇が観測される。T MT T F 系の TCOの大きな圧力変化が報告されており,重水素化は化学圧力効果を起こしているとも考えられる。一般には C D の

結合距離がC Hより短いため,加圧方向へのシフトが期待されるが,TCOおよびsP転移温度の変化からは現象論的に は約0.5 kbar程度の負圧効果が起こっているように見える。我々は八面体アニオンの運動の重水素効果を調べるた めに,H 体と D 体の S bF6塩に対する19F NMR 測定を行った。八面体カウンターイオンの運動凍結は,H 体と D 体とも に電荷秩序転移温度(TCO)よりは十分に低く,電荷秩序形成が純電子的な起源によるものであることを強く示唆し ている。

b)擬一次元有機伝導体(TMTTF)2Xは,近年の電荷秩序状態の発見により,低温絶縁相におけるミクロスコピックな電 荷の振る舞いに興味がもたれている。我々はこれまでに(TMTTF)2X 系列の E SR 測定を系統的におこない,カウン ターアニオンの対称性とE S R 線幅の異方性との対応関係をもとにして低温絶縁相における電荷秩序状態が3つの グループに大別できることを提案した。 しかしながら,電荷秩序形成のメカニズムや電荷秩序状態で観測されるE SR 線幅の異方性や温度依存性についての定量的な理解は現在のところ十分ではない。(TMTTF)2XにおけるESR線幅の 振る舞いを特徴づける緩和機構についてさらなる知見を得ることを目的として,これまでに報告したX バンド(10 GHz)より高周波数帯の Qバンド(34 GHz)および W バンド(100 GHz)での E S R の測定をおこなった。(TMTTF)2S bF6

のX -,Q-,W -bandのE S R 測定の結果,g値の温度変化の振る舞いならびに絶対値は周波数依存性を示さず,観測して いるE S R 信号がcollectiveなものではなく,single particle 励起であることが分かった。また,g値が顕著な温度依存性 を示すことも分かった(下記c)項参照)。一方,E SR 線幅からも下記のような興味深い結果を得た。電荷秩序転移温度 以上の金属状態では,各周波数で絶対値ならびに温度依存性の違いは見られない。これはこの温度領域ではスピン

(2)

144 研究系及び研究施設の現状

軌道相互作用を通じた伝導電子フォノン散乱による緩和(E lliot機構)が非常に速いために,10~100 GHz帯域の測定 では周波数依存性が見られないものと考えられる。ところが,電荷秩序形成温度以下では,顕著な周波数依存性が観 測された。X -bandから W -bandへと測定周波数が高くなるにつれ,E S R 線幅が増大していく。この傾向は反強磁性ゆ らぎによる臨界発散領域でより顕著になる。電荷秩序形成温度以下では,電子は局在するために,低温領域では緩和 は徐々にT2機構が支配的になっていく。詳細については検討中であるが,反強磁性状態へと系が向かう過程に於い

て,徐々にスピン−スピン相関時間が遅くなっていくためと考えられる。

c) 電荷秩序状態のメカニズムやスピン構造と分子構造との相関は,ほとんど理解されていない。また,b)項で述べたよ うにT MT T F 塩のうち比較的大きなカウンターイオンを持つ(T MT T F )2S bF6等の系では温度依存する異常なgシフト が観測される。このような異常は有機・無機固体にかかわらず非常に珍しいもので,T MT T F 塩でもB r塩やS C N塩で は観測されない。g シフトの温度変化は分子軌道が温度低下とともに変形していることを示唆している。そこで,

(TMTTF)2Xのスピン構造と分子構造との相関を解明するべく,室温並びに低温での構造解析を行い,その構造パラ

メータから密度汎関数法による分子軌道計算からgテンソルの理論計算を行った。X線測定はR igaku R -A X IS IV 回

折計とME R C UR Y C C D を用いた。分子軌道計算はGaussian03を用いて,g値はGIA O(Gauge-Including A tomic Orbital) 法より見積もった。SbF6塩では,温度低下に伴いbc面内で,異方性が小さくなる。この異常は徐々に起こっており150 K 近傍の電荷秩序転移とは直接の関連はない。また,先に述べたようにg値の周波数依存性がないことから,この異 常は T MT T F 分子のスピン分布に大きく依存していると考えられる。室温ならびに低温における構造からg 値の理 論計算を行うと,B r塩では実験と同じくg値の温度変化は予測されないが,S bF6塩では計算からも低温になるにつ れg値が等方的になっていく結果を得た。詳細については検討中であるが,T MT T F 分子の結合長が変化しているか,

二量体化などの効果によりフロンティア軌道のスピン分布が変化したものと考えられる。熱収縮の際にカウンター イオンがストレスになって,異方的な変形を受けているなどのことは十分考えられる。現在,種々の実験手法を用い, さらに詳細な研究を行っている。

d) B E D T -T T F 系の多彩な電子相を微視的な観点から理解するために,多周波 E S R を用いて研究を行っている。二つの 低次元反強磁性体γ-(BEDT-TTF)2PF6 とζ-(BEDT-TTF)2PF6(T HF )はS QUID 測定からは同程度の巨視的な交換相互作 用が見積もられるが,後述するように微視的なスピン間相互作用には顕著な違いがある。本研究では X - ,Q- および W -band E SR を用い,スピン相関の発達をE SR 線幅の観点から理解しようとするものである。①γ-(BEDT-TTF)2PF6は 小さなギャップをもった半導体であり,B E D T -T T F 分子がside-by-side方向に強い相互作用がある一元的な電子構造 をもつ。スピン磁化率は,低温まで有限の値を示し,強い一次元性を持った反強磁性体であると考えられる。古典的 な反強磁性体の振る舞いとは異なり,E S R 線幅は温度低下とともに減少する。また,170 K で異方性が変化しており 緩和機構のクロスオーバーが観測される。高温領域では,線幅異方性や温度依存性から遍歴的な電子スピン緩和が 支配的である。低温側では電子は局在しているので,スピン間相互作用が線幅を担っていると考えられる。この系で も,高温領域ではE S R 線幅に明瞭な周波数依存性が見られず,E S R 線幅のクロスオーバー温度以下で顕著な周波数 依存性が観測された。X -bandから W -bandへと測定周波数が高くなるにつれ,E S R 線幅が増大していく。低温領域で 優勢になってくるスピン間相互作用による緩和時間が,高温領域に比べて遅くなっていると考えられる。②ζ-(BEDT- T T F )2PF6(T HF )は,鎖間の相互作用が少なからずある構造になっているのでγ-(BEDT-TTF)2PF6よりは二次元性が強 い系と考えられる。ζ-(BEDT-TTF)2PF6(T HF )は,E S R 信号が 5 K で消失するとともに,その温度直上で E S R 線幅の発 散が観測された。このことから,5 K で反強磁性的な長距離秩序化が起きていると考えられる。このことと,常磁性領 域でのE SR 線幅が典型的な磁性体でよく見られる温度に依存しない振る舞いを取ることを考えると,この系が素序

(3)

研究系及び研究施設の現状 145 の良い反強磁性体と見なすことが出来る。恐らくは,ζ-(BEDT-TTF)2PF6(T HF )の方が鎖間や面間の相互作用が大きい ために,長距離秩序が安定化するものと考えられる。現在,構造およびバンド計算の観点から,研究を進めている。 e) 分子性導体における新電子相ならびに分子性固体の新機能を探索するために,興味深い種々の系に対して微視的な 観点から測定を行っている。これまでの固体広幅 NMR 測定に加え,本年度から B rukerE 680,E 500 を用いた多周波 E SR 測定も精力的に行っている。NMR とE S R は相補的な測定であり,特に広い時間スケールで電子系ならびに格子 系のダイナミックスを理解することが出来る。本年度はT MT T F 系,B E D T -T T F 系および種々の分子性導体の研究を 行ってきた。また,協力研究ならびに共同研究を通じて,他の大学機関で開発された新規な系の電子物性・スピンダ イナミックスの研究も進行中である。

B -1) 学術論文

S. FUJIYAMA and T. NAKAMURA, “Charge Disproportionation in (TMTTF)2SCN Observed by 13C NMR,” Phys. Rev. B 70, 045102 (6pages) (2004).

T. SEKINE, N. SATOH, M. NAKAZAWA and T. NAKAMURA, “Sliding Spin-Density Wave of (TMTSF)2PF6 Studied with Narrow-Band Noise,” Phys. Rev. B 70, 214201 (13pages) (2004).

S. SHIMIZU, V. G. ANAND, R. TANIGUCHI, K. FURUKAWA, T. KATO, T. YOKOYAMA and A. OSUKA,

“Biscopper(II) Complexes of Hexaphyrin-(1.1.1.1.1.1): Gable Structures and Varying Antiferromagnetic Coupling,” J. Am. Chem. Soc. 126, 12280–12281 (2004).

L. O. HUSEBO, B. SITHARAMAN, K. FURUKAWA, T. KATO and L. J. WILSON, “Fullerenols Revisited as Stable Radical Anions,” J. Am. Chem. Soc. 126, 12055–12064 (2004).

H. MATSUOKA, N. OZAWA, T. KODAMA, H. NISHIKAWA, I. IKEMOTO, K. KIKUCHI, K. FURUKAWA, K. SATO, D. SHIOMI, T. TAKUI and T. KATO, “Multifrequency EPR Study of Metallofullerenes: Eu@C82 and Eu@C74,” J. Phys. Chem. B 108, 13972–13976 (2004).

B -2) 国際会議のプロシーディングス

T. NAKAMURA and K. MAEDA, “Competition Electronic States of (TMTTF)2MF6: ESR Investigations,” J. Phys. IV France 114, 123–124 (2004).

T. TAKAHASHI, R. CHIBA, K. HIRAKI, H. M. YAMAMOTO and T. NAKAMURA, “Dynamical charge disproportionation in metallic state in θ-(BEDT-TTF)2RbZn(SCN)4,” J. Phys. IV France 114, 269–272 (2004).

S, MOROTO, K. HIRAKI, Y. TAKANO, T. TAKAHASHI, H.M. YAMAMOTO and T. NAKAMURA, “Charge disproportionation in the metallic states of α-(BEDT-TTF)2I3,” J. Phys. IV France 114, 399–340 (2004).

T. TAKAHASHI, N. TAKAHASHI, T. NAKAMURA, T. KATO, K. FURUKAWA, G. M. SMITH and P. C. RIEDI,

“Magnetic characteristics of Fe4N epitaxial films grown by halide vapor phase deposition under atmospheric pressure,” Solid State Sci. 6, 97–99 (2004).

A. KAWAMORI, J. R. SHEN, K. FURUKAWA, E. MATSUOKA and T. KATO, “W-band EPR studies of Mn-cluster in the S0 and S2 states of Cyanobacterial single crystals,” Plant and Cell Physiology 45, 81–81 (2004).

M. HIRAOKA, H. SAKAMOTO, K. MIZOGUCHI, T. KATO, K. FURUKAWA, R. KATO, K. HIRAKI and T.

(4)

146 研究系及び研究施設の現状

TAKAHASHI, “Spin soliton dynamics and pressure effects in the spin-Peierls system (DMe-DCNQI)2M (M = Li, Ag),” J. Magn. Magn. Mater. 272, 1077–1078 (2004).

B -7) 学会および社会的活動 学協会役員、委員

日本物理学会 名古屋支部委員 (2001- ).

日本化学会 実験化学講座編集委員会 委員 (2002- ). 電子スピンサイエンス学会 担当理事 (2003- ).

A sia-Pacific E PR /E S R S ociety S ecretary/T reasure (2004- ).

C ) 研究活動の課題と展望

本グループでは,分子性導体の電子構造(磁性,電荷)を主に微視的な手法(E S R ,NMR )により明らかにしている。平成16 年度には元加藤立久グループの古川貢助手が本研究グループに加わり,多周波・パルスE S Rという強力な手法も行えるよ うになった。また,IMSフェローとして昨年度末から原俊文氏が加わり,多周波E SR 測定とともに放射光での精密電荷分布測 定も行っている。放射光での実験は学術創成研究の主幹的な役割も果たしている。総研大生の前田圭介氏はこれまで X - band E S R を中心に研究を進めてきたが,さらに多周波 E S R ,NMR へと実験を展開している。NMR は分光器3台が稼働し, さらに高圧下・極低温下といった極端条件での測定システム構築を行っている。分子性導体における未解決な問題を理解

するとともに,新奇な分子性物質の新しい電子相・新機能を探索する。

参照

関連したドキュメント

工学部の川西琢也助教授が「米 国におけるファカルティディベ ロップメントと遠隔地 学習の実 態」について,また医学系研究科

大谷 和子 株式会社日本総合研究所 執行役員 垣内 秀介 東京大学大学院法学政治学研究科 教授 北澤 一樹 英知法律事務所

Analysis of the results suggested the following: (1) In boys, there was no clear trend with regard to their like and dislike of science, whereas in girls, it was significantly

奥村 綱雄 教授 金融論、マクロ経済学、計量経済学 木崎 翠 教授 中国経済、中国企業システム、政府と市場 佐藤 清隆 教授 為替レート、国際金融の実証研究.

講師:首都大学東京 システムデザイン学部 知能機械システムコース 准教授 三好 洋美先生 芝浦工業大学 システム理工学部 生命科学科 助教 中村

学識経験者 品川 明 (しながわ あきら) 学習院女子大学 環境教育センター 教授 学識経験者 柳井 重人 (やない しげと) 千葉大学大学院

海洋技術環境学専攻 教 授 委 員 林  昌奎 生産技術研究所 機械・生体系部門 教 授 委 員 歌田 久司 地震研究所 海半球観測研究センター

【対応者】 :David M Ingram 教授(エディンバラ大学工学部 エネルギーシステム研究所). Alistair G。L。 Borthwick